ワラキアの夜
登場
???
「―――――――――む?
この乱数は、なんだ?」
「……なんと。この肉体の実感、路上に影を落とす
たしかな輪郭……」
ワラキアの夜
「やはり。タタリと成る前の私そのものだ。
ズェピア・エルトナムが噂化される筈もなし、
さりとて、私なくしてタタリが発生する筈もなし。」
「ふむ。あまり考えたくないコトだが、舞台ジャック
というヤツかな、これは。」
「面白い。長年物語を紡いできたが、役者にではなく
舞台そのものに攻撃されるのは初めてだ。」
勝利時
「観客になるのは実に五百年ぶりだ。
私に代わって脚本を手にした者がどれほどの
演出家か、楽しませてもらうとしよう。」
4戦目 vs.ネロ・カオス
ワラキアの夜
「おや、これはこれは。
はじめまして、になりますかな、偉大なる先達者。」
「私に冠位を譲り渡した前の祖が、貴方と交友が
あったようですが。」
ネロ・カオス
「フ。安心しろ、そう大した事ではない。」
「あれは八百年ほど前、白翼の城に我ら
全員が集い、互いの同盟を確認しあっただけの事。
ただ顔を直接見た、というだけの縁だ。」
ワラキアの夜
「なんと、そのような催し物があったとは。
いやいや、たかだか五百年前程度の私では
与り知らぬ事。その席では全ての祖が?」
ネロ・カオス
「半数ほどだったな。
私も貴様の親元である祖も、そういった付き合いは
いい方だったのでね。魔術師あがりの宿痾だな。」
ネロ・カオス
「死徒となる時に記した盟約には逆らえん。」
ワラキアの夜
「なるほど。
では、本当にまったく、十三位と十位の間に、
守るべき誓いはないと?」
ネロ・カオス
「ないとも。
ここで食い合い、己の不確かな体を補充する事に、
何の支障もないという事だ。」
ワラキアの夜
「ハ―――無惨滑稽笑劇諧謔、
いずれ茶番に違いないが場繋ぎとしては悪くない。」
「真祖の姫を追い、敗れ去った亡霊同士。死と死を以て
道化芝居をはじめよう―――!」
勝利時
「まずまずの脚本、と言いたいが……少々マンネリズム
がすぎるのではないかな?
いかに二十七祖の一角とはいえ、彼を中盤に据えるのは
やり尽くされた後だからね。」
8戦目 vs.ロア
ワラキアの夜
「なんと。懲りもせず祖の一人を連れてくるとは。
まったくの新顔だが、これでは驚きも半減だ。
あまりにもタメというものがない。」
ロア
「そう言ってやるな。むしろこのクラスの駒を二つも
あてた事を褒めてやれよ。」
「目には目を、怪物には怪物を、だ。おまえの娘は
見所がある。ま、底抜けの間抜けではあるがな。」
ワラキアの夜
「…………ふむ。少々不愉快だな。
その口ぶりでは全貌を知っているように
聞こえるが……」
「君のような死に損ない、転生をもって永遠を
定義しようとした愚か者が、私より多くを
識っていると?」
ロア
「識っているとも。」
「今回は転生先の生きがいいんで、少しばかり
乱雑な頭だがね。おまえの失敗も、おまえの敗因も、
おまえの結末も、全て判っている。」
「なにしろ十七回に渡る人生だ。
おまえと似たような魔術師の一人や二人、
見てこなかったとでも思ったか?」
ワラキアの夜
「……失礼、言い直そう。
吐き気をもよおすほど不愉快だ。」
「個人としての生に執着したばかりか、
凡百の魔術師たちと私を同列に扱うとは――――」
「個人の命に依存しなくてはならない永遠など、
私は認めない。タタリの具現として、その移り気な
蛇身を裂くとしよう!」
勝利時
「輪廻の螺旋、その底辺に沈むがいい
ミハエル・ロア・バルダムヨォン。
私の舞台に、不老不死をかすめ取る
姑息な蛇など必要ないのでね。」
9戦目 vs.オシリスの砂
ワラキアの夜
「―――なんという事だ。
このような結末を用意していたとは。」
???
「そう、ここは黒い大地。
“ワラキアの夜”を倒す為に真祖が呼び寄せた、
この星の死の未来。」
「我々が目指す、錬金術の始まりにして終着だ。」
オシリスの砂
「―――再演算、停止。
主催の役割はここまでだ、ズェピア・エルトナム。」
「アナタは幻影の夏を再現する為、私が再演した虚構。
その体に振り分けた魔力をこの大地に返すがいい。」
ワラキアの夜
「―――断る。
無に帰すのはそちらの方だ、冥界の砂。」
オシリスの砂
「? 不可解だ。アナタなら私を理解できる筈。
共に霊長を滅亡から救う為に死徒となり、
祖となった。そのアナタがなぜ。」
「よもや、かつての理念を忘れ、吸血鬼としての
生に揺らいだとでも?」
ワラキアの夜
「あり得ない。私などという概念はタタリと化した時に
消滅した。ここにいるズェピアという器は、真祖に
よって強引に象どられた“過去の私”だ。」
「かつての渇望も、吸血鬼としての執着も、
タタリには存在しない。」
オシリスの砂
「すでに目的を失い、漂うだけの力だと言うのだな。
ならば私に従う事にも異論はあるまい。」
ワラキアの夜
「いや、それがな。どうにもこのカタチでいるのが
長すぎたようだ。今はひどく我が儘になっていてね。」
「特に―――間違った物語を前にすると、
批評を抑えられないらしい。」
オシリスの砂
「―――間違った物語?
つまらないでもなく、退屈でもなく?」
「私とアナタは同じものを目指して脚本を
進めているのに?」
ワラキアの夜
「同じではない。私は滅びを回避する未来を見つける
事ができず正気を失い。」
「君は滅びは回避できないと諦め、 “その後の方法”に
逃げだした。」
「結末は同じだが選んだ道は真逆なのだ。
真祖であっても同じ事を口にするだろう。」
「生き延びようとあがく末の終焉なら、
それは滅亡ではなく結末だと。」
オシリスの砂
「―――視点の違いだ。
それは言葉遊びにすぎない。」
「結果が同じであるなら、 “その後”に残るものを
造る私に、間違いなどない。」
ワラキアの夜
「その為に全人類を結晶化しては本末転倒だよ。
オシリス。君のやり方は、幕を下ろす事を嫌がる
子供の苦悩にすぎない。」
「本来、人の脚本に口をだすほど無粋ではないの
だがね、今回は特別だ。タタリの名を冠している
以上、検閲は厳しくさせてもらおう。」
「まあ―――率直に言うと公開停止だよ、シオン。」
エピローグ
ワラキアの夜
「―――かくて鳥は羽を失い、誰の目にとまること
なく、密やかに地平に没する、か。」
「いや、実に惜しい。目の付けどころは悪くなかった
のだが。」
「次があるのならエンターテイメントのなんたるかを
学ぶ事だシオン。人間の娯楽を遠ざけていた君に、
人間を救う事などとてもとても。」
「そら、見たまえ。幕を下ろすとはこういう事だ。
自らが広めた妄信によって人々は死に絶え、
私も、私を発信する者が消える事で死に絶える。」
「フィナーレとはかくあるべし。
それが悲劇にしろ喜劇にしろ、終焉は華やかで
あるべきだ。」
「さて。タタリに飲まれなかった本物の君は、
それをいつ学ぶのか。
答えは、次のタタリの夜に知るとしよう―――」
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